愚妻が薬の副作用でソファにひっくり返っている。
処方された薬をくわしくネットで調べてみると、ガン再発防止の薬だそうだ。
ひらたく言えば、抗がん剤と同じようなものなのだ(たぶん)。
だから副作用が強い。
下痢、倦怠感、食欲不振で、最低限の家事だけして、あとは居間のソファに横になっているという次第。
テレビを観たり、ウトウトしたり。
元気づけようと思って、
「映画に行くぞ。『ワイルド・スピード』だ!」
今朝、誘ったところが無言でジロリと私を見上げる。
「じゃ、何かうまいものでも喰いに行くか。熱燗をグビっとやれば元気になるぞ」
ソッポを向いた。
「ファイトだ! ファイトだ! 気力で勝負!」
大声でエールを送ると、
「ちょっと、うるさいわね」
眉間にシワを寄せて怒っていた。
6月になれば元気になっているだろうと、近間の温泉を予約しておいたのだが、近所の日帰り温泉に行く気力もなさそうで、ずっとご無沙汰。
これじゃ、温泉でのんびりというわけにもいかず、今日キャンセルした。
このまま投薬を続けるか中止にするか、数値的にビビミョウな状況だそうで、血液検査に週一で通っている。
むろん私が送迎する。
診察に病院に行ったとき、看護師さんに、
「老々介護って、こんな感じなんでしょうね」
と言ったら、曖昧な笑顔を見せていた。
ま、看護師さんとしては返事が難しいでしょうな。
愚妻の病気に加えて、私は法務がある。
毎日、慌ただししい。
お陰で原稿が遅々として進まず、精神衛生上、すこぶる悪いのだ。
編集長氏に状況報告のメールをしたら、
「無理しなくていい」
と言ってくれる。
だが、それに甘えるわけにはいかない。
ファイトだ! 気力だ!
だから寝る前、居間で稽古を始めた。
突いたり、蹴ったり、ストレッチしたり、腕立て伏せをしたり。
「ちょっと、鬱陶しいわね」
ソファに横になった愚妻が文句を言うのだ。
間もなく梅雨入りである。
文字どおり、鬱陶しいシーズンになるのだ。