歳時記

松本零士さんの言葉

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松本零士さんが亡くなった。
私は週刊誌記者時代、人物記事を多く手がけたが、松本零士さんもその一人だ。

当時、松本先生さんは超多忙でインタビュー時間が取れず、ご本人とあれこれ電話で話していると、大阪に出かける用事があるとおっしゃったので、これに食らいつき、大阪から帰京する新幹線の中で取材させてもらうことにした。

もちろん強引なアポ取りである。
私も若かったし、そのころの週刊誌の取材は修羅場のようなものだった。

で、午後の新幹線の車中。

インタビューの途中で、松本零士さんがさっと席を立つや、窓ガラスに鼻をくっつけるようにして外を見ている。

「どうかしましたか?」
私が問うと、
「ほら、あれ!」

指さす先を見ると気球が飛んでいた。

「気球がどうかしましたか?」
私が気のない声で言うと、
「キミ、あれを見て感動しないのかね」

あきれたような顔でおっしゃった。
夢を紡(つむ)ぐ人というのは、こういう感性を持っているのかと感心したものだ。

無遠慮ついでに、かねて疑問に思っていたことを質問してみた。
『銀河鉄道999』はなぜSLなのかということだ。

すると松本先生は、ボソリとおっしゃった。

「新幹線だと、空を飛んで当たり前のような格好だから」

私はこの一言に唸ったものだ。

当たり前のようなモノやコトであっては、作品としてインパクトに欠けるというわけである。

つまり「落差」が妙味ということだ。

あれから何十年が経つが、この「当たり前ではダメだ」という松本零士さんの言葉だけは頭から離れないでいる。

奇を衒(てら)って、なお衒いと感じさせない。

才能とはこういうものだろうと、松本零士さんの訃報に接して改めて思うのだ。

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