「生き方」の極意

袖振り合うも多生の縁

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人間の出会いについて、拙著『35歳から人生が豊かになる故事・ことわざ』(三笠書房・知的生きかた文庫)から要旨を転載。

『袖振り合うも多生の縁』

旅立つ人を見送るときに、なぜ手を振るのだろうか。
あれは単なる仕草でもなければ、合図でもない。日本文化に根ざした深い意味が伝承されているのだ。

そのことから説明しよう。

万葉集が編纂された七世紀~八世紀の古代、「袖を振る」という行為には招魂の意味があった。
古代信仰における呪術で、これを「魂(たま)振り」といい、袖を振ることで魂(霊力・生命力)の再生や鎮魂、さらに情念を相手に伝えることができるとした。

当時の衣は筒袖(つつそで)で、しかも袖丈(そでたけ)が手よりも長いため、手を動かせば袖がひらひらと振れた。旅立つ人に袖を振ることで、息災を願ったというわけである。
「手を振る」というのは、このなごりというわけだ。

『袖振り合うも多生の縁』ということわざの出典は不詳とされているが、「袖振り」の古代信仰から考察して、おそらく万葉の時代ということになるだろう。
意味は「人と人との縁は単なる偶然ではなく、前世からの深い因縁によって起こる」とし、
「どんな出会いも大切にしなさい」
と説いたものである。

『多生』とは輪廻転生のことで、すべての人間は生と死を繰り返すという古代インドの思想をいう。
仏教もこの影響を受け、地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上の六つの世界のいずれかに生まれ変わるとする六道輪廻が説かれる。

以上のことから、人間関係を象徴する『袖振り合う』に、『多生』という仏教語とを組み合わせ、ことわざに昇華したものと私は考えている。

気の合う人、合わない人、好感をいだく人、嫌悪感をいだく人・・・・と、相手に対する思いはさまざまだが、袖振り合う人でさえ前世の因縁によるのだ。

そのことに思いをめぐらせるならば、自分を取り巻く人間関係もまた、これまでと違ったものに見えてくるのではないだろうか。

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