歳時記

大坂なおみさんの優勝に思う

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大坂なおみさんが全米オープンで優勝して本当によかった。

身びいきということもあるが、ひねくれ者の私は、決勝の相手選手が勝てば「仇役」のように見られるだろうと危惧していたからだ。

もはやスポーツの世界は、「勝った者が称賛される」という基本原則を超え、多面的な付加価値が「勝者」を決めるようになったということなのだろう。

なぜ、こんな感慨を持つかというと、いまから52年前の1968年に開催されたメキシコ五輪で、こんな事件があったからだ。

陸上競技男子200メートルでのこと。
優勝した選手と3位の選手はアフリカ系アメリカ人で、彼らは黒人の貧困を象徴するため、シューズを履かず黒いソックスで表彰台に上がってメダルを受け取った。

2人は黒人のプライドを象徴する黒いスカーフを首にまとい、そのうち1人は、白人至上主義団体によるリンチを受けた人々を祈念するためロザリオを身につけていた。

そして、アメリカ国歌が演奏され、星条旗掲揚されている間中、2人は頭を垂れ、黒い手袋をした拳を高々と突き上げた。

これが「ブラック・パワー・サリュート」で、全世界に向け、黒人差別に抗議したのである。

結果はどうか。
会場の観客からはブーイングが巻き起こった。
IOCは、オリンピックに政治問題を持ち込んだとして即座に2人を出場停止にし、オリンピックから追放。
帰国した2人に対して母国アメリカは、国中から非難と中傷を浴びせたのである。

あれから半世紀が過ぎた。
私は大坂なおみさんのプレーと、黒人差別への抗議マスクをテレビニュースで見ながら、メキシコ五輪のあの時の1コマを思い浮かべた。

大坂なおみさんのマスクは勇気ある行動として称賛される一方で、メキシコ五輪の2人の抗議は国内外から非難された。

このことに考えさせられる。
人権運動の高まりがスポーツ界をここまで変えたということで、大坂なおみさんの勇気ある行動と優勝は歴史に刻まれるだろう。

だが、日本のメディアは情緒的な報道に流れてしまっていないか。
メディアは大坂なおみさんの勇気ある行動を称賛すると同時に、メキシコ五輪での黒人差別抗議に触れ、「スポーツと政治」に踏み込んでもらいたかった。

来年は東京五輪だ。
実施できるかどうかはともかく、IOCの一連の高飛車な態度を見るにつけ、その思いを強くするのだ。

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