歳時記

電話という「トラウマ」

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電話もなければ、メールもほとんどない。
もとより出勤はない。
コロナのおかげで、穏やかな日が続く。

ことに電話がないという日々は、社会人になって以降、初めてではないか。
実に47年ぶりである。

週刊誌記者時代、「電話のないところへ行きたい」と切実に思ったことが何度もある。

〆切が終わって朝方、家に帰ったと思ったら、追いかけるようにして編集部から電話。
「事件が起こったので記事を差し替えるから、すぐに取材に行け。カメラマンとは現地で合流だ」

こんなことはしょっちゅうで、〆切日の編集部は徹夜で稼働しているのだ。

朝4時、酔っ払って帰宅したら、
「すぐ大阪へ行け」
と編集部から電話があったことも。

取材の都合で、朝一の新幹線に乗らなければならない。
酔っ払っていてネクタイが結べず、業を煮やした愚妻が私を担ぐようにしてタクシーに同乗して東京駅へ。
そのまま愚妻も新幹線に乗って大阪に行ったこともある。

愚妻が強気なのは、私にこうした諸々の負い目があるからである。

「今週の記事でクレームが来た」
「週刊××が当事者にインタビューしたらしいぞ」
「バカ野郎、週刊○○に抜かれてるじゃないか」

編集部からの電話はろくなことがなく、
(電話のないところへ行きたい)
そんなことを思ったものだ。

いま思えば、携帯のない時代でよかったと、つくづく思う。

電話は私のトラウマである。
いまもスマホの着信メロディー設定するとき、「黒電話」のチリチリチリという音を聞くと、神経が逆立つ。

それがコロナのおかけで平穏な日々。
外出自粛も悪くないのだ。

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