歳時記

防災グッズ

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 缶詰や水、携帯トイレといった防災グッズは、これまで玄関に近い場所に置いてあった。
 邪魔である。
「なぜ玄関なのだ」
「避難するときにすぐに持ち出せるじゃないの」
 と愚妻が言う。
「どこへ避難するのだ」
「小学校の体育館よ」
「お前は、食糧や水や携帯トイレをかついで体育館に避難するのか。備蓄品は自宅籠城のためのものである」
 ここでハタと気づいたようで、
「それもそうね」
 ゴソゴソと備蓄品の移動を始めたところが、テレビの防災番組で、1階より2階に保管しておくほうがいいと言っていた。
 1階はつぶれる危険があるからだ。
 しかも、1箇所でなく、分散するほうがいいとも。
 愚妻はすぐさま備蓄品を2階に移し始めた。
 自分の部屋とクローゼットはいいとして、2階トイレの入口付近にも分散して置いてから、
「通るのにちょっと狭いから気をつけてね」
 いつ来るかわからない災害である。
 一生、来ないかもしれない。
 それなのに、不便な思いをしてトイレに入らなければならないのか。
「意味がないのではないか?」
「災害に遭う前は、みんなそう言うのよ」
「しかし」
「文句言うヒマがあるなら、作務衣や着物を片づけなさいよ。邪魔でしょ」
 問題がスルリと入れ替わり、滔々と私の批難が始まるのだ。

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