歳時記

会話の主導権

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 お経を称えていたら、急に饅頭が食べたくなった。
 仏壇に供えてあったからだ。
 左右に2個ずつ計4個。
 手を合わせてから1個食べた。
 しばらくして、仏間から、
「ちょっと、饅頭を食べたでしょ!」
 愚妻の怒声。
「油断も隙もないんだから」
 ブツクサ言うので、
「よくぞ気がついた。お前は、まだまだ若い」
 ホメてやったのだが、
「左右ふぞろいになっていれば、誰だってわかるわよ!」
 私としたことが、うっかりしていた。
 左右1個ずつ食べればよかったのが、お供え物とあって、無意識に遠慮したのだろう。
「饅頭を1個しか食べなかったということは、わしも立派な僧侶になったということになるな」
 話題をちょこっと転じる。
「どこが立派なのよ」
「見てからんのか?」
「わからないわよ」
 愚妻が食いついてきたところで、
「ところで、日帰り温泉はどうした?」
 ガラリとテーマを変え、愚妻自身のことを問いかける。
「今日は日曜だから満員よ」
「明日か?」
「そう」
「何時だ?」
「7時」
 かくして「饅頭を食べた」という批難は消し飛んでしまったという次第。
 夫婦の会話で主導権を保つ一例である。
  

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