歳時記

菅原文太さんのこと

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 週刊誌の記者時代、私は「人物記事」を多く手がけてきた。
 政財界から芸能、スポーツまで、その時々で脚光を浴びていた人を中心にインタビューしたり、密着取材をするのだが、意外な一面を見て感心したのが、先日、お亡くなりになった菅原文太さんだ。
 撮影現場に密着取材していたときのこと。
 昼時、ロケ弁当を食べていた文太さんが、ヒザの上にご飯粒を落とした。
 どうするか見ていると、指先でご飯粒をつまんでひょいと口に入れ、私と目が合うと、
「もったいないからね」
 ボソリとおっしゃった。
 映画スターといえばハデなイメージがあるが、この仕草と言葉で、私はいっぺんに文太さんが好きになったものだ。
 周知のとおり、文太さんは晩年、農業に従事するが、農作業をする文太さんの記事を目にすると、
「もったいないからね」
 とおっしゃった言葉を思い浮かべつつ、「らしいな」と思った。
「虎は死して皮を留め、人は死して名を残す」
 と故事に言うが、「名を残す」とは、「言葉を残す」という意味ではないかと、つらつら考えるのである。

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