歳時記

愚妻が風邪を引いた

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 愚妻が風邪を引いて頭が痛いというので、すぐに医者へ行かせた。
 寝込まれて困るのは、この私であるからだ。
 それでも、
「具合が悪い」
 と言って、昨日は寝込んでしまった。
 そこで私は、
「何だ、風邪ごときで!」
 厳しく叱責し、
「風邪は、〝治る〟と思えば治るのだ」
 と教えた。
「そんなことを言っても無理よ」
 こういうときの愚妻は、病に伏せるドラマのヒロインのように、ハァハァとつらそうな声を出してみせる。
「無理ではない。華厳経に『初めて発心する時、便(すなわ)ち正覚を成ず』とある」
「なによ、それ」
「直訳すれば『真剣に悟りを得たいと発心したときには、すでに悟りを本質をつかんでいる』ということだ。この言葉を拡大解釈すれば、『風邪よ治れ』と発心したとき、すでに回復の本質をつかんでいるということになる。ゆえに、『治る』と思えば・・・」
「うるさい!」
 ヒロインの〝ハァハァ声〟が一転、元気な怒声に変わったのである。

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