鼻が詰まる。
ちょっとだけである。
(まさか!)
花粉症という言葉が脳裏をよぎるが、
(バカな)
と一笑に付した。
かつて花粉症で苦しんでいたが、2年前から症状が出なくなっていたからだ。
というのも3年前、花粉症に加えて、秋のブタクサにもアレネギーを起こすようになり、夏からクスリの服用を始めたところ、ブタクサはもちろん、花粉症も出なくなったというわけである。
それでこの2年というもの、愚妻の花粉症を尻目に、
「わしは治ったぞ」
と高笑いしてきた。
それだけに、もし花粉症の〝再発〟となれば、格好がつかないのではないか。
(風邪気味なのだ、そうに違いない)
と、私は自分に言い聞かせるのだ。
そういえば、昨日、畑に出かけたときに、畑大指南役のSさんと花粉症の話題が出た。
畑の近くに杉林があるからだ。
で、畑の隅に腰を下ろしてSさんが言った。
「私なんか、九州の田舎育ちで、昔人間ですからね。花粉症なんか、なりませんよ。現代人は弱くなったんです」
「なるほど」
と、私と愚妻は大きくうなずくが、映芳爺さんだけ黙っている。
映芳爺さんは88歳だから、もちろん昔人間。
しかも田舎育ちだから、
「そうだ、そうだ」
と、ここぞとばかり賛意を表するところなのに沈黙し、Sさんが淹(い)れてくださったウコン入りのコーヒーをすすっている。
何のことはない。
映芳爺さんも花粉症なのだ。
田舎育ちの昔人間としては、きっとバツが悪い思いをしているのだろう。
私も武士の情けで、映芳爺さんが花粉症であることを口にしなかった。
だからS大指南役は、私たち3人が花粉症と無縁と思ったのだろう。
「花粉症になる人は、ひ弱なんだと思いますよねぇ。だって・・・・」
滔々と花粉症人間について語り始めた。
映芳爺さんに続いて、愚妻も沈黙。
私一人が、「そうだ、そうだ」と力強くリアクションする。
その私が花粉症を再発したとなれば、愚妻は鬼の首でも取ったように大ハシャギするだろう。
花粉症の再発は、亭主の沽券(こけん)に関わる大問題なのだ。
まさか、花粉症の再発?
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