歳時記

夫婦仲にも「必要経費」

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 最近、「必要経費」ということを考えている。
 お金の話ではない。
「人生の必要経費」である。
 人生において何かを得ようとすれば、相応の努力がいる。
 これを「必要経費」と私は考えるのだ。
 ところが、私たちはこの「必要経費」を惜しむ。
 努力しないで、楽して稼ぎたいと思う。
 他人に気をつかうのはイヤだが、他人には気をつかって欲しい。
 チヤホヤされるのは好きだが、チヤホヤするのは大嫌い。
 これでは人生、うまくいくわけがない。
 虎児を得ようとすれば、虎穴に入らなければならない。
 コップを洗えば手は濡れるのだ。
 夫婦仲も同じで、〝オシドリ〟でいようと思えば「必要経費」がいる。
 これを世間では、
「忍耐」
 というのだ。
 だから私は〝オシドリ〟でいるために、忍耐という多大な「必要経費」をつかっているのである。
 ところが、このことに愚妻はまったく気づいていない。
 私の忍耐を知らないのだ。
 これでは夫婦仲にとってよくあるまいと思い、そのことをハッキリと告げたところが、
「冗談じゃないわよ」
 眉をつり上げて居直った。
「私なんか、〝必要経費〟でとっくに倒産しているんだから」
 今日は、全国各地で雪。
 そういえば先夜、「雪の降る音が聞こえるかどうか」をめぐって、愚妻と論争したことを思い出した。
「絶対に聞こえる」
 と、愚妻は言い張り、
「それは音ではなく、気配だ」
 と、私は主張。
 賢夫と愚妻の論争は延々とつづき、双方が譲らないため険悪になってしまった。
 考えてみれば、どうだっていいような論争なのである。
 それをお互いムキになり、次第にヒートアップしていく。
 いまこうして振り返ってみると、私たち夫婦は意味のない「必要経費」を湯水のごとくつかっていることがよくわかる。
 そんな私たち夫婦を見て、他人様は「仲がいい」と言ってくださる。
「おかげさまで」
 と言って、私は笑う。
 笑うしかないではないか。
 

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