歳時記

愚妻の「明日から地獄」

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 愚妻が、1日1400カロリーの食事を心がけるよう医者から言われた。
 カロリーのことなど念頭にない愚妻のために、私は食べ物のカロリー一覧を用意し、愚妻の〝カロリー生活〟が始まった。
 愚妻らしく、愚直に〝カロリー生活〟を始めたので、私は危惧した。
 いきなり小食にするとストレスが生じ、イライラが私にハネ返ってくるかもしれないからだ。
 で、言った。
「何事も〝急ハンドル〟を切るのはよくない。〝カロリー生活〟も少しずつにすべきだ」
「わかったわ。少しずつね」
 眼が輝いている。
 もともと食い意地が張っているだけに、こういう助言には素直に耳を貸すのである。
 で、某夜、イタ飯を食べに行った。
「どうした、ワインは飲まないのか?」
「カロリー、高くなりすぎない?」
「大丈夫。明日、節制すればよいのだ」
「そうね」
 赤ワインをグラスで3杯飲んだ。
 で、先夜、寿司屋さんに行った。
「どうした、酒は飲まないのか?」
「カロリー、高くなりすぎない?」
「大丈夫。明日、節制すればよいのだ」
「そうね」
 熱燗を銚子で3本飲んだ。
 かして、愚妻はそうと知らず、恐怖の「明日から地獄」に陥(おちい)りつつあるのだ。
 これまで私は、いろんなことで「明日から地獄」に苦しんだ経験がある。
(明日から。よし、明日から。なあに、明日からやればいいんだ)
 その「明日から地獄」を、決意することに乏しい愚妻に身をもって教えるのは、意地悪でなく、夫たる私の義務でもあるのだ。

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