歳時記

神棚とクリスマス

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 幼児をつれた若い母親が、入会の説明を聞きに道場へやってきたときのことだ。
 私が説明していると、母親がふと道場正面に目をとめ、
「神棚があるんですか」
 と眉間に眉を寄せて、
「我が家はクリスチャンですから」
 そそくさと帰って行った。
 どんな教団か知らないが、なかなか立派な信者さんだと感心しつつ、あきれたものだ。
 実を言うと、私は得度して僧籍を持って以後、道場の神棚は気にはなっていた。
 だが、道場の神棚は「神道」としての意味ではなく、稽古において無事息災を願う象徴として古来より続いているものだ。
 そういうことから、あえてこだわることもあるまいと、これまでどおりにしているわけである。
 今日はクリスマス。
 イエス・キリストの誕生を祝うキリスト教の記念日であるが、クリスチャンでない人にその意識はなく、バレンタインデーと同列のイベントの一つになっている。
 なんのことはない、道場の神棚と同じなのである。
「クリスチャンでもないのに、どうして大騒ぎするのか」
 と〝非クリスチャン〟が目くじらを立てれば、クリスチャンは、
「どうしてクリスマス本来の意味をわかってくれないのか」
 と嘆くことだろう。
 何事においても、広まってしまえば、本来の意味を離れて一人歩きしていくものなのだ。
 それなのに、本来の意味を知って欲しくて広めようとする。
 矛盾である。

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