歳時記

妙な不動産屋があったものだ

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 鴨川に借りた仕事部屋まで自宅から遠く、月に1回しか行けない。
 これでは仕事部屋の意味がないので、もっと近いところにしようと思い立ち、ネットで探すと、 某不動産会社のHPに手頃な賃貸マンションがあった。
 手狭だが、景観もよく、仕事部屋にはちょうどよい。
 しかも自宅から1時間15分。
 ただ、襖(ふすま)の焼けがひどく、畳も痛んでいたので、これは手を入れてくれるよう不動産会社の案内人に告げたところ、
「オーナー様に訊いてみます」
 とのことだった。
 鴨川のいまの仕事部屋を借りるときは、大家のほうでちゃんと手を入れて貸してくれていたので、
「貸し手に訊く」
 ということが私には釈然としなかったが、まっ、そんなものかと思って引き上げた。
 で、その夜。
 不動産会社の担当者から電話がかかってきた。
「オーナー様にお願いして直してもらう場合、退去するときは、同様に直していただくことになりますが」
 と言うではないか。
 じゃ、何のために敷金(2カ月分)を取るのだろうか?
 敷金とは退室する際に、入居中に破損させてしまった部屋の設備を修理するための料金で、それを入居前に先払いするものだ。
「となると、敷金2カ月というのは何ですか?」
 私は訊いたが、担当者はそれには答えず、
「当社は、そういうことになっております」
 の一点張り。
 賃貸のことはよく知らないが、敷金を取られた上に、さらに私が直すとなれば、ボッタクリもいいところではないのか?
 カチンときたので、白黒つけようかと思った。
 だが、よしんば相手に謝らせることができても、溜飲を下げる以外、私の得るものは何もないことに気がついた。
 かつてホリプロの堀威夫会長にインタビューしたとき、堀会長はこんなことをおっしゃった。
「ケンカは負けて元々、勝って得をするものしかやっちゃいけない」
 その言葉を思い出し、頭にはきたが、何とか自制したという次第。
 それにしても、不動産会社は玉石混淆。
 ネットでハデに宣伝しているからといって、信用するのは考えものだと、当たり前のことを再認識して、
(それはそれで得るところがあった)
 と、自分をなだめたのである。
 

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