歳時記

「我がままの時代」の予感

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 就職氷河期だそうだ。
 私の身近にも、現時点で7社受けて全滅という大学生もいる。
「心配すんな。どっかあんだろう」
 正月明けのころは私も軽口を叩き、大学生クンも笑っていたのだが、いまは深刻な顔で、
「就職できないんじゃないかって不安です」
 とこぼしていた。
 考えてみれば、ついこの間まで、若手社員の定着率に企業は頭を悩ませていた。雇っても、すぐに辞めてしまうからだ。
 実際、いかにすれば社員が辞めないで長く働いてくれるか、といった雑誌特集や書籍がたくさん刊行された。
 それがわずか一年で、就職氷河期なのである。
 いかに「世相」が刹那的で、うつろいやすく、アテにならないかがわかるだろう。
 ついでに記せば、私が学生だった30余年前は「年功序列・終身雇用」という日本の雇用形態が批判されていた。
 経営サイドからすれば、
「そんな、ぬるま湯のような企業経営で国際競争に勝てるか」
 ということであり、従業員サイドからすれば、
「年功にしばられず、アメリカ企業のように実力次第でどんどん出世できたらいいな」
 というものであり、
「一生、会社にしばりつけられるのはイヤだ。転職するたびにキャリアアップしていくアメリカ企業がうらやましい」
 と、そんな気持ちを抱いていた。
 まともに就職したことのない私が言うのもおこがましいが、「年功序列・終身雇用」は旧態依然とした日本の企業風土だろうと、若かった当時は思ったものだった。
 だが、それは高度経済成長下での話なのだ。
 経済がイケイケで収入が増えていた当時、
「何をやったってメシは食っていける」
 と楽観もし、鼻息も荒かった。
 だから「年功序列・終身雇用」を〝足かせ〟と、うとましく感じたのである。
 ところが、どうだ。
 ひとたび大不況を迎えるや、
「クビを切るな」
「会社は冷たい」
 と批判し、かつて否定したはずの「終身雇用制」は、実は素晴らしかったのではないかという価値観に変わりつつある。
 つまり、「時代」という背景によって、価値観は変わるどころか、逆転さえするということなのだ。
 だから、世相や時代の雰囲気に惑わされてはいけない。
 我が道をいくのだ。
 他人に迷惑をかけなさえしなければ、自分が生きたいように生きればいいのだ。
 そんなことをつらつら考えていると、「我がままであれ」という時代が、これから始まるような予感がしてくる。
「自分の人生をどう生きたいのか」ということをつきつめて考えていけば、世相に背を向けることにもなるだろう。「我がまま」になっていくのは当然だと、私は思うのである。
 

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