歳時記

金融不安ごときにジタバタしていられるか

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 NYダウが1万ドルを割り込み、日経平均株価も1万円を割った。
 私は株をやらないので実感はないのだが、連日、金融不安のニュースに接していると、
(なんだかヤバそうだなァ)
 という気分になってくる。
 ウチの女房も、
「トイレットペーパーを買い込んでおいたほうがいいかしら?」
 と、真顔で私に訊く。
 昭和48年のオイルショックを知っているだけに笑うわけにもいかず、
「ついでに洗剤も買っておけ」
 私も真顔で応じた次第。
 オイルショックというのは、第4次中東戦争を引き金にした原油高騰のことで、テレビの深夜放送はなくなり、街からネオンが消え、雑誌もページ数が少なくなった。
 ついでながら、当時、大学4年生だった私は某弱小出版社でバイトをしていて、このままこの会社にもぐり込むつもりでいたのだが、オイルショックのおかげで、バイトをクビになってしまった。
「向谷君、悪いけど、このオイルショックで我が社も……」
 編集長が私を昼食に誘ってそう切り出し、クビになった私は「人生ショック」を受けたことを覚えている。
 そのときの昼食が、忘れもしないエビフライ定食。そんなわけで、いまもエビフライを見るたびに、あのときのことを思い出すのである。
「水は買わなくていかしら?」
 女房がテレビニュースを見ながら、さらに訊く。
「買っておけ」
「缶詰は?」
「買っておけ」
「米は?」
「買っておけ」
「あっ、そうだ。いま電話したら、指圧は予約が一杯なんですって」
「買っておけ」
「ちょっと、マジメに聞いてるの!」
 こっちとら、フーフー言いながら人生街道を歩いているんだ。金融不安ごときにジタバタなんぞしていられるか。
   

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