歳時記

「男物の日傘」でブームを考える

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 今日――といっても、日付が変わったので昨日になるが、注文していた男物の日傘が宅配便で届いた。
 男性のあいだで、日傘が静かなブームだというニュースを見て、さっそく通販で購入したのである。
 布はシルバーグレーの透け透けで、鏡に映して見ると、実にカッコいいのだ。作務衣にこれをさせば、ドンピシャリではないか。
 カミさんに自慢して見せたかったが、あいにく出かけている。
 84歳の親父に見せてもしょうがない。
 人間は、「悲しいときは一人でも耐えられるが、嬉しいときにこそ孤独感に苛(さいな)まれる」という言葉を思い出す。
《咳をしても一人》
 というのは、尾崎放哉の有名な一句だが、私の場合は、
《日傘をさしても一人》
 ということか。
 放哉は孤独感を咳に託し、私は日傘に託して詠んだというわけである。
 放哉の心情に思いを馳せつつ、私が一人、日傘をさして居間のソファに座っていると、グッドタイミングで、近所に住む娘が孫を二人つれ、買い物途中に立ち寄ったのである。
「何してるの?」
 日傘をさし、パジャマ姿でソファに座る私を見て、娘が目を剥いた。
 4歳の孫(男)は奇異な目で、私を見ている。
 まもなく2歳になる孫(女)は、居間の入口で立ち止まり、警戒心を露わに私を見ている。
「ちょっと、何よそれ」
 娘が咎めるように言う。
「男物の日傘だ」
「通販?」
 破って放置した包装紙を見ながら言う。
「そうだ。いま届いた。流行しているのを知らんのか?」
「そうらしいけど、でも、そんなもの、本当に買う人がいるのねぇ」
 妙な感心をして、
「すぐに置き忘れてきて、お母さんに怒られるんだから」
 バチ当たりなことを言って帰っていった。
 再び一人になって、
「そんなもの、本当に買う人がいるのねぇ」
 という娘の言葉を反芻した。
 考えてみれば、番傘は欲しいと思っていたが、男が日傘をさすなど、私自身、思いもよらないことだった。
 実際、社会通念としても、日傘は女のものだ。スキンヘッドの私にとって夏はつらいが、日傘という発想はハナからなかったのである。
 ところが、「ブームです」というニュースの一言で、「男の日傘」が奇異ではなくなってきたのである。
 ここですな。
「ブーム」という一言は、価値観や社会通念を一変する力がある。
 もっといえば、「ブーム」は〝お墨付き〟のことで、ひとたび〝お墨付き〟をもらえば、何でもOKということであり、そのことを知らない人間は、「遅れてるゥ~」とバカにされるだ。
 男の化粧も、脱毛も、み~んな「ブーム」という言葉の〝お墨付き〟で市民権を得たのである。
 ヨン様だって、「ブームです」と報じるから、おばちゃんたちが遠慮なくキャーキャー騒げるのであって、あれが〝ブーム〟でなければ、冷たい目で見られることだろう。
 モノの価値観とは、ことほど左様に浮薄なものなのである。
 世間の〝ブーム〟に背を向け、へそ曲がりと言われる私が、自分に都合のいい〝ブーム〟には、いそいそと乗る。
 日傘をさした自分をもう一度、鏡に映しつつ、
(人間、勝手なものだな)
 と、つくづく納得した次第。

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