歳時記

「人生の収穫期」を心待ちにせよ

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 昨夜のことだ。
「忙しくて仕事に追われる時期は、カネは儲からないんだ。覚えておけ」
 拓大の先輩が、イモ焼酎を水割りでやりながら私に言う。
「たとえば歌手を見ろ。人気が出てくれば、あっちこっちテレビに出まくって、寝る間もないくらい忙しくなるが、その割りに本人は儲からない。だけど、いったん人気歌手になればギャラが上がり、さらに仕事を選べるようになる。つまり仕事の量は減って、逆に稼ぎは多くなるというわけだ」
 なぜ、先輩がそんなことを私に話して聞かせたのか、わからない。
 たぶん、
(こいつ、忙しく本を書いている割りには儲かってなそさうだな)
 と見抜いたせいかもしれない。
「貧乏ヒマなし」
 と言うが、私の場合は、
「多忙カネなし」
 というわけである。
 だが、先輩の言うことは当たっている。
 歌手はともかく、畑をやっていて、つくづくそう思うのだ。
 畑を耕し、種を蒔き、肥料をやり、草を取る。
 一所懸命、農作業に精を出すのだが、この間は収穫ゼロなのだ。
「忙しいけど、儲からない」
 という時期である。
 そして何ヶ月も汗を流し、「やれやれ」と、ひと息ついたころ、収穫期がやってくるというわけだ。
 ところが、悲しいかな、私たち凡夫はそれが待ちきれない。
(こんなに頑張ってるのに、ちっとも成果があらわれないじゃないか)
 不満タラタラである。
 じっと耐えて、待つこと。
 いや「人生の収穫期」を心待ちにしながら、ニコニコ笑顔で努力すること――これが人生の要諦のような気がするのである。
 道場で、若者たちに筋トレをやらせると、
「ウッ」
とか
「ヒィッー」
とかうめき声を発しつつ、顔をしかめてやっている。
 そのとき私は、彼らに言うのだ。
「筋力が強くなるんだから、こんな嬉しいことはないじゃないか。笑え! 嬉しそうな顔をしてやれ!」
 いまの苦しみが、いずれ収穫をもたらす「畑の耕し」だと思えば、まさに、こんな嬉しい苦しみはないのだ。

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