居間のソファーに座ると、布の袋に入った固いものが2つ、ガツンと腰に当たる。
なにかと思ったら、いつぞや購入した地震対策用のヘルメットではないか。
たしか2階の、私たちそれぞれの寝室に常備していたはずだ。
「グラッときたら、これをすぐにかぶってスエットに着替えるのよ。リュックを忘れないようにね」
何度も何度も念を押していたではないか。
そのヘルメットがなぜ居間にあるのだ。
問うと、
「地震でつぶれるのは1階でしょう。だから2階はヘルメットはいらないと思って」
このところ、千葉県東方沖を震源とする地震が頻発しており、気象庁が注意を呼びかけていることに愚妻がたちまち反応したのである。
「あなたは頭がツルっ禿げだから、ヘルメットの下にキャップをかぶるのよ」
「グラグラグラときているときに、そんな悠長なことしている時間があるか?」
「あってもなくてもかぶればいいの。じかにヘルメットをかぶったて頭皮をケガしたら、痛いだ何だとうるさいでしょう」
私の頭のことより、自分に手間がかかることを心配しているのだ。
「千葉に地震くるかな?」
「くるわよ」
「なぜだ?」
「そんなこと、私が知るわけないでしょ!」
問い詰めると、いつも「私が知るわけないでしょ」と居直るのだ。
居直りはともかく、能登の方々の悲惨な様子をテレビニュースで見るにつけ、地震は本当に怖いものだと、私もいささか愚妻に感化されつつあるのだ。