愚妻が居間のコタツの脇で、足を上げたり、上体を起こしたり、奇妙な動作をくり返している。
「何をしておる」
問うと、
「健康体操よ。いつも寝るときベッドでやってるの」
こともなげに言ったので、私は衝撃を受けた。
私の知らないところで、ひそかに健康維持を心掛けているのだ。
「自分だけ長生きするつもりか」
「あなたもやればいいじゃないの」
「わしは長生きしたくない」
「あっ、そ」
私を無視して、今度はストレッチを始めたのである。
愚妻と寿命を競ってもしょうがないが、自分だけ長生きしようという根性が気に入らない。
そのことを咎めると、
「あなたもやればいいじゃないの」
「わしは長生きしたくない」
「あっ、そ」
同じ会話がくり返され、私は不機嫌に、そして愚妻はノンキに足を上げたり、上体を起こしたり。
コロナ禍をよそに、老夫婦の師走の夜は、こうして過ぎてゆくのだ。