歳時記

一関でコケシを買って帰る

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 一関市で、自分用に土産を買って帰った。
 もともと私は土産や、記念写真など興味はないのだが、これは一目見て欲しくなった。
「雪やけこけし」である。
 平仮名で表記するとわかりにくいが、「雪焼けコケシ」のことで、雪焼けした人間をコケシで現している。
 由来は、こうだ。
《古来此の地に住む里人達は永い冬暮しの間炭焼きなどをし、春から秋にかけては瑞山部落の宿場より剛力(ごうりき)として「須川温泉」の湯治客や荷物を背負い険しい山道を往復して歩き春夏の残雪を踏みしめ汗にまみれての毎日が続き赤黒く雪やけせし顔を想起し、その素朴な姿と健康な色調を郷土色豊かに山麓の原木を用いて表現したのが、この雪やけこけしです。
 今は見る事の出来ない剛力の姿をこの雪やけこけしによって偲んでいただければ幸いです。
 寂しい時、哀しいとき腹の立つ時またうれしいときこのこけしをじっと御覧下さい。無限の表情はあなたの心に和らぎと楽しみをかよわせるでありましょう。》(高長木芸)
 このこけしには、顔が描かれていない。
 それが想像の翼を無限に広げさせ、リアルに迫ってくるのだ。
 私に欠けているのは、「荷物を背負い、険しい山道を往復して歩き、春夏の残雪を踏みしめ、汗にまみれる日々」ではないだろうか。
 ハタと気づき、自戒を込めて、この雪やけこけしを買って帰ろうと思ったのである。
 一尺ほどの大きさで七千円。
 安くはない。
「おい、わしにプレゼントする気はないか」
 愚妻にもちかけと、
「いいわよ」
 即座にOKして、
「あたなたに必要かもね」
 複雑な心境になったが、喜んでプレゼントされた次第。
 今日も一日、稽古が始まるまで雪やけこけしを眺めていた。

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