歳時記

続・蜘蛛の巣

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今朝、日帰り温泉に行くや、すぐさま露天風呂に直行。
蜘蛛の巣を見上げたところが、「ない!」

なくなっているのだ。
蜘蛛もいない(たぶん)。

まさか蜘蛛が店じまいして片づけるわけがないので、強風で壊れたか、従業員が取っ払ったか。

いずれにしても、あそこに蜘蛛の巣を張っていても虫は引っかかるまい。
どういう事情があったによせ、場所を移すのは賢明である。

その昔、編集企画会社をやっているころ、日本語学校が通信教育に乗り出すというので、私が手がけたことがある。

どういうわけか、日本語学校を運営する会長に気に入られ、夜は会長室で差し向かいになり、一杯やりながら経営の話や人生論などをうかがった。

「私はねぇ、歴史を縦軸、そして今の自分の立ち位置を横軸に置いて見るんだ」

いまいち意味がよくわからなかったが、ブランデーグラスを転がしながら、会長はそんなことをおっしゃたりした。

そんな話のなかで、「なるほど!」と腑に落ちたのが、
「釣り糸は魚道に垂れよ」
という一言だった。

釣り糸を垂れる前に、そこに魚がいるかどうかを確かめよ、ということである。

私は今朝、露天風呂で蜘蛛の巣がなくなっている小枝を見上げながら、会長のこの言葉を唐突に思い出し、
「蜘蛛の巣は、虫の通り道に張れ」
と、どこにいるかわからない蜘蛛にエールを送った次第。

だが、この会長には後日談があ。
日本語学校は繁昌していたが、会長が土地転がしに手を出し、土地バブルの崩壊で大ヤケドする。

日本語学校倒産の新聞記事を見て、私はボー然。
会長は雲隠れ。
通信教育のための教科書もすでに完成しており、私は大赤字を食うのである。

私は、魚道に釣り糸を垂れたつもりで通信教育のプロジェクトを引き受けたのだが、とんでもない見誤りだったということになる。

「蜘蛛の巣は、虫の通り道に張れ」
と、蜘蛛にエールを送りながらも、「気をつけろよ」と気を揉むのである。

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