愚妻が手製マスクを突き出して、
「これ、法務のときに掛けて行きなさいよ」
と言った。
地味な色なので、黒い法衣にちょうどいいのだそうだ。
イヤだとも言えず、掛けていったのだが、法話をしていると、顎の動きに合わせてマスクが下にずっていくのである。
私などそうだが、しゃべっている相手のマスクが次第にズレていくと、話しの内容よりそっちが気になる。
これでは法話が相手に届かない。
帰宅して、そのことを愚妻に告げると、
「じゃ、行き帰りだけそのマスクをして、会場に入ったら今までのマスクに掛け替えればいいじゃないの」
一瞬、「なるほど」と思ったが、考えてみれば、わざわざ手製のマスクを掛けて行く意味がないではないか。
しかし、せっかく作ってくれたものをそうは言えず、私はマスク2種類持ちという手間をかけているだ。
それにしても、たかがマスク、されどマスク。
メーカーのマスクはさすがで、自宅で同じ形のマスクは作れても、機能においてちょっとしたところが違う。
「アマチュアには決して作れないもの」
これがプロの仕事というものだろう。
どの分野においても、プロが少なくなってきたように思う。
ふり返って自分はどうか。
自問するのである。