日帰り温泉の露天に浸かりながら、トンボを目で追っている。
ここ半月、そうである。
トンボは空中でホバーリングこそするが、後退はできない。
前にしか進まないことから「勝ち虫」と呼ばれ、戦国武将は兜のマークや、着物、帯などの柄に好んで用いたという。
私もトンボ柄の帯を持っていて、購入したとき、店主からそんなウンチクを聞いた。
露天の上を飛ぶトンボを見ていると、なるほど後退はしない。
だが、
(待てよ)
と、ふと疑問がよぎる。
朝ウオーキングしていて、田んぼの上を飛ぶカモも、サギも、トンビも、後退なんかしないじゃないか。
彼らがバックしながら飛ぶ姿なんてあり得ない。
では、なぜトンボだけ「後退しない」と言われ、戦国武将たちが愛したのか。
それを解明したくて、この半月、じっとトンボを目で追っていたという次第。
だが、結局、わからない。
どうしてもわからない。
で、愚妻に意見を求めると、
「そんなこと、トンボに聞いてみなさいよ」
こともなげに言ったのである。