愚妻は夜、自室に引っ込むと、ベッドにバタンキューである。
見たことはないが、本人がそう言っている。
私はそうはいかない。
執筆のあとは頭の芯が疲れていて、少し興奮状態になっている(と思う)。
以前はゆっくり風呂に入って神経を解きほぐしていたが、いまは日帰り温泉なので、お湯を張るのは〝日帰り〟に行かない土曜と日曜が基本。
あとはシャワーである。
だから神経は解きほぐれない。
それでつい、ベッドに入ってから仕事と関係のない本をパラパラとめくる。
以前もそうだったが、ここしばらくも大作家たちの名作と呼ばれる小説である。
志賀、谷崎、川端、三島。
上手だな、と思う(僭越だけど)。
逆立ちしても私にはこんな書き方はできまい。
だけど、正直言って面白くない。
名作が面白くないとは、私に読み込む力がないのではないか。
気になって、一所懸命に読んでみる。
すると、ますます目が冴えてくる。
行間を読み込むのに難儀する。
難儀するから、ちっとも面白くない。
面白くないから考え込む。
こうして眠れぬ時間が続くのだ。
翌朝は日帰り温泉に行かねばならぬ。
行かないと、愚妻の機嫌が悪くなる。
かくして私の睡眠不足は続くのである。