さすが今度の枕は寝心地がいい。
すっかり忘れていたが、私はかつて枕に凝っていた時期があり、いろんなタイプを買ったものだ。
そのうち厭きてくるのだが、きっかけは、保護司の仕事で網走刑務所に受刑者の面接に行ったときのこと。
市内に移築され観光資源になっている「網走監獄」を見学した。
受刑者たちの獄舎での生活の様子が蝋人形を使って展示されているのだが、受刑者たちの枕は一本の長い丸太を横にしたもので、この上に等間隔に頭を乗せて就寝する。
説明文によると、起床時間になると看守は丸太の端をカンカンと木槌で打つだけで全員を起こせるとあった。
(なるほど)
と感心しながら、なぜか急速に枕に対する関心が薄れていくのを感じたものだ。
寝心地がいいとか悪いとか、枕ごときにうつつをぬかす自分が滑稽に思えたことを覚えている。
就寝といえば、素っ裸で寝るのが健康にいいと友人編集者に言われ、そうしたことがある。
「地震がきたらどうするのよ!」
愚妻に怒られたので、私は洋服一式をベッドサイドに置いて寝ていたのだが、初秋に大風邪を引いて断念した。
私は何にでも興味を覚え、この身で実践してみるのだが、何かの拍子にピタリとやめてしまうと見向きもしなくなる。
延々と続いているは、ただ一つ。
愚妻との縁だけだ。
腐れ縁は別名、「鎖(くさり)縁」という。
鎖は容易には切れないのだ。