愚妻が腰痛を訴える。
「温泉に浸かりすぎて、腰の脂肪がふやけたのではないか」
私がイヤ味を言うと、
「庭仕事をしたからでしょ! やさしくないんだから」
柳眉を逆立てたので、私はさとした。
「わしが気遣いの言葉をかけて、おまえは喜ぶのか? ウソっぽく聞こえるのではないのか? 何か魂胆があると疑うのではないのか?」
なぜなら、やさしさは往々にして偽善がつきまとうことを私たちは知っているからだ。
「どうだ?」
「それはわかるけど、脂肪がふやけたはないでしょ」
「わかった。そこまで言うなら、やさしい言葉をかけてやろうではないか。おい大丈夫か、歩けなくなるのではないのか、そうなると二度と温泉には行けなくなるぞ、病院へ言って精密検査を受けたほうがいいのではないか、短いようで長い人生だったな」
「ちょっと、殺さないでよ!」
腰痛はどこへやら。
鬼の形相で怒っている。
真のやさしさとは、こういうことを言うのだ。