歳時記

駅のキップ自動販売機

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 今朝、浅草のホテルで知人に会うため出かけた。
 それはいいのだが、問題は帰途の浅草駅。
 電車に乗ることはめったにないので、路線図を見上げながらキップの値段を探していると、
「何かお困りですか?」
 と、若い女性の駅員さん。
 いまや浅草は国内外から人気の観光地とあって、案内係がいるのだろう。
「それが、キップの買い方がよくわからなくて」
 私は咄嗟に言った。
 私の頭のなかでは、
「降車駅までの値段がわからないので、路線図を見て探しているところです」
 と言うつもりだったが、短絡して「キップの買い方がよくわからない」と言ってしまったのである。
 案内係の女性はやさしく微笑んで、
「どちらまでですか?」
 行き先を告げると、私が手に持つ千円札に目をやりながら、
「では、ここからお札を入れて下さい」
「ハイハイ」
 入れると、
「はい、では次ぎに画面の720円のところをタッチしてください。ここ、ここですよ」
 このときハタと気づいた。
 彼女は、私が「老人」で、自動販売機の買い方を知らないと思っているのである。
 これには、さしもの私もいささかショックだったが、どうせなら遊んでやれと思って、
「ほう、画面にタッチするだけでキップが出てくるんですか?」
「そうなんですよ」
 彼女がやさしく微笑んで言う。
「どこの駅でも、やり方はおなじなんですか?」
「はい、同じです」
「便利ですな」
「ウッフフ」
 どこまでも、やさしい笑顔であった。
 そして、降車駅。
 ポケットを探ると、
「ない!」
 キップを紛失してしまっていたのだ。
「あのう、キップを落としたみたいなんですが」
 中年のオッサン駅員に言うと、
「乗車駅からの運賃をいただくことになりますので、よく探してみてください。どこかポケットに入っているんじゃないですか?」
「探すの、面倒ですからお金を払います」
「どこからですか?」
「浅草です」
「エー、浅草からですと・・・」
 料金表を見始めたので、
「720円です」
 私が言った。
 浅草駅で、〝お嬢さん駅員〟相手にくだらないことをやったので、しっかり料金を覚えてしまったのである。

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