歳時記

風邪が峠を越える

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 昨日、都内で旧友に会った。
 10年ぶりである。
 少林寺拳法で活躍した好漢で、某大学の事務局に勤務していたが、いまは上場企業を母体とする通信制高等学校の事務局に転じたという。
 竹を割ったような男で、私より七つ年下だ。
 10年ぶりだというのに、そんな気がまったくしない。
 そう言えば先夜は、高校を出て以来、45年ぶりに竹馬の友に会った。
 さすがに「竹馬」も歳を取っていて、街ですれ違ってもそうと気がつくまい。
 それでも私は、45年ぶりという気がしないのだ。
 どうやら私には、「久しぶり感」が欠如しているようで、何事もつい昨日のことにように感じてしまうのだ。
 ついでに書けば、「驚く」ということが、あまりない。
「ヒヤッとした」という経験も記憶にない。
「後悔する」ということもほとんどなく、後ろをよく見ないでクルマをバックさせていてガードレールにガツンとぶつけたときも、
「あッ!」
 と叫んだのは助手席の愚妻で、私は、
「ぶつかったのか」
 と、事実を単に認識しただけだった。
 血の気は多いはずなのに、どうも感情の起伏が平坦のようで、精神的疾患があるのかもしれないと、このごろ思ったりもするのだ。
 精神的疾患の懸念は他にもある。
 10年ぶりに会った少林寺マンに問われるまま、思いつくまま、通信教育の今後の展開なり、教育環境を取り巻く状況について話をすると、
「お会いしてよかったです」
 と、何度も感激してくれた。
 そう言われて悪い気はしないものの、何がよかったのか、当の私にはさっぱりわからない。
 自分で言うのも何だが、雑誌の電話コメントも立て板に水で、思いつくままペラペラとやるのだが、
「面白いコメントをありがとうございました」
 と記者氏にお礼を言われて、ハタと我に返り、
(わし、何をしゃべったんだっけ?)
 思い出せないでいる。
 正直、ヤバイ気がしないでもないのだ。
 精神的疾患はともかく、風邪がやっと峠を越えた。
 お陰で〆切は、これからいくつもの峠を迎える。
 昨年暮れに渡すはずの原稿が延び延びになったままの出版社がある。
 もうしわけなく、またどうしても書いておきたいテーマと手法であるため、早くかかりたいのだが、資料の読み込みと整理に手間取っている。
 梅雨入り前には脱稿したい。
 そう言えば今朝、別の出版社から、
「進み具合はどうですか」
 と〝進み具合コール〟があった。
「ええ、ま、何とか」
 声だけは意図的に弾ませ、意味のない返事をして切り抜ける。
 風邪がぶり返しそうな予感である。 

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