金環食を見るための簡便な〝黒メガネ〟をちょうだいした。
目は大丈夫だそうだ。
「じゃ、ひとつ見てやるか」
という気になった。
実を言うと、ヘソ曲がりのは私は、
「金環食なんか見てやるか」
そう思っていた。
一定の時間に日本中の人が空を見上げているのかと思うと、
「冗談じゃねぇ」
というわけだ。
ところが、〝黒メガネ〟をもらってコロリと前言を飜(ひるがえ)し、
「おい、量販店へ行って、おまえのメガネを買ってこい」
と、愚妻に命じた。
〝黒メガネ〟は一つ。
いくらワガママな私でも、自分だけ金環食を見るのは気が引けるのだ。
しかしながら、〝メガネ〟は完売だったとか。
となれば、明朝は、一つの〝黒メガネ〟を半分に切り離し、愚妻と一つずつで見ることになるではないか。
「なぜ、もっと早くに買いに行かんのだ」
叱責すると、
「ちょっと、金環食なんか見ないって言ってたじゃないの」
愚妻が怒った。
愚かな女にはわかるまいが、君子はいつだって豹変するのだ。
金環食と〝黒メガネ〟
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