歳時記

孫とボート釣りに行く

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 小1男児の孫をつれて、釣りに出かけた。
「殺生」と「孫の喜び」を秤(はかり)にかけ、グズクズと迷っていたが、ついに断を下したわけだ。
 釣りの殺生はもちろん感心しないが、考えてみれば、それとはくらべものにならないくらいの大罪を犯している私である。
(エエーィ! 善人ぶるな!)
 というわけで今朝3時30分、拙宅に泊まった孫を叩き起こし、内房の富浦へクルマを飛ばした次第。
 ボート屋の親方が、漁船もどきで、私と孫が乗る手漕ぎボートを沖まで引っ張って行ってくれる。
 初めての経験に、孫が目を輝かして喜んでいる。
 やっぱり来てよかった。
 親方が私たちのボートを放し、私はアンカーを投げ込んで、竿を出す。
「遠くに投げて、誘ったほうがいいよ」
 と親方が言っていたので、
「エイ!」
 と竿を振ると、糸がプッツン。
 オモリだけがヒューと飛んでいく。
 結び方がマズかったか。
 孫の手前、みっともないではないか。
 急いで仕掛けをやりかえ、
「エイ!」
 と竿を振ると、糸がプッツン。
 オモリだけが飛んでいく。
 このとき、釣具屋のアンちゃんの言葉が脳裏をよぎる。
「お客さんは初心者ということですし、ボート釣りでしたら、遠くへ投げることはないでしょう」
 どうやら、オモリが重すぎたようだ。
 しょうがないから、投げないで、近くにポトン。
 それから20分。
 釣れない。
 孫を喜ばせないではないか。
 あせっていると、風が出てきて、海面がうねり始める。
 と、孫が顔をしかめて、
「ボク、気持ち悪くなった」
 船酔いである。
 ヤバイ。
 すぐさま携帯で親方に連絡を取り、岸までボートを引っ張ってもらい、かくして私と孫の釣り行きは終わったのである。
 帰途、クルマのなかでつらつら考えるに、孫の喜ぶ顔も見たし、一匹も釣れなかったということは、殺生をしないですんだということでもある。
 メデタシ、メデタシ、ではないか。
 ところが、夜。
「また行きたいって行ってるわよ」
 と、孫の母親である娘から電話。
 孫が本当にそう言ったのか、娘のリップサービスか。
 また連れて行けとせがまれたらどうしよう。
 私は再び、悩み始めるのだ。

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