歳時記

口中の斧

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 今日は朝から都内に出ていて、夕方、帰宅。
 愚妻が、
「ダイコンの種を買ってきたわよ」
 と報告。
「ついでに、サンチュの種も買ってきたわ」
 サンチュは、きっと愚妻の好物なのだろう。
 さらに、草刈り機の燃料も買ってきたという。
 畑の周囲が草ぼうぼうなので、草刈り機を使えばいっぺんにきれいになるのではないか、というわけだ。
「誰がやる」
「あなたしかいないでしょ」
「いつ行くのだ」
「明日の朝よ。畑に行くと言ったじゃないの」
「記憶にない」
 このあと、愚妻の罵詈雑言に、私は静かにさとした。
「『口中(こうちゅう)の斧(おの)』という言葉をがある」
「何よ、それ」
「人は生まれながらに口の中に斧を持っており、愚(おろ)か者は悪口を語って、その斧で自分自身を損なうのだ」
「私が愚ろか者だって言うわけ?」
「間違った。そなたは愚妻であった」
「ちょっと!」
 このあと、さらなる愚妻の罵詈雑言に、私は明朝、畑行きを約束させられたのである。
 お釈迦さんは、『口中の斧』という言葉を以(もっ)て、
「悪口は、まわりまわって自分を苦しめるぞ」
 と戒めるのだが、わが家は、愚妻の〝口中の斧〟によって、この私が傷つくのだ。

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