歳時記

用事もないの走るのは人間だけ

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 陸上の世界選手権最終日。
 男子400メートルリレー決勝で、ジャマイカが37秒04の世界新記録で優勝した。
 リレーのメンバーで、100メートル決勝でフライングで失格となったボルト選手が、
「とにかく速く走ろうと必死だった。素晴らしい気分だ」
 と喜びのコメントをした。
 このコメントに接しながら、劇画作家の故梶原一騎先生の言葉を思い出した。
「向谷君、用事もないのに走るのは人間だけだぞ」
 そう喝破(かっぱ)したのである。
 目からウロコとはこのことだろう。
 なるほど、動物は獲物をとるとき以外、走ることはない。
 地上最速のチータが、
「ちょっと走ってみるか」
 ということはないし、
「とにかく速く走ろうと必死だった。素晴らしい気分だ」
 と息を弾ませることもない。
 用事もないのに「ヨーイ、ドン!」をやって一喜一憂する人間は、それゆえ素晴らしいのか、それとも愚かなのか。
 梶原先生が亡くなって24年になるが、
「用事もないのに走るのは人間だけだ」
 とおっしゃった真意は何だったのだろう。
 世界陸上を見ながら、そんなことを考えたのである。

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