今日から8月だというのに、蝉(セミ)の鳴き声がしない。
夏といえば「蝉しぐれ」。
頭上から降りそそぐような蝉の鳴き声に、
「暑いなァ」
と、暑さが倍加されて感じたものだ。
その蝉の鳴き声が、とんと聞こえないではないか。
「地球がおかしくなっているんだよ」
とは、馴染みの鰻屋の老オヤジさん。
「もう地球も終わりだな」
と、したり顔で言うと、
「あなたが終わりじゃないの」
奥さんが憎まれ口を叩く。
この鰻屋は、前にも紹介したが、骨董が趣味のオヤジが始めたもの。
四人がけのテーブルが3つだが、そのうち1つにオヤジさんがどっかりと座っているので、客用は2つしかない。
しかも、営業は昼間の2時間だけ。
「客なんか、来なくていい」
と、老オヤジは言っている。
『余白亭』という店名からして、老オヤジさんの〝人生観〟がうかがえるだろう。
そういう店だから、他の客と顔を合わせることはめったになく、我が夫婦と鰻屋夫婦の四人で、なんだかんだと話をするというわけである。
で、昨日は、蝉の話になったのだが、
「そう言えば、蝉だけじゃなく、今年は蚊(カ)がいないな」
と、老オヤジさん。
「ホントですね」
と私が相づちを打つと、愚妻が、
「いるわよ。私なんか庭掃除していて、たくさん食われてるんだから」
と異論を口にした。
「いや、おらん」
私が再反論し、老オヤジさんも、
「そうだ」
と加勢する。
すると、奥さんが、
「います!」
ピシャリと言って、
「あなた方は、家の中でゴロゴロしているだけだから蚊に食われないんです」
どこの家庭も、女房は強いのだ。
蝉(セミ)も蚊(カ)もいない
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