歳時記

人生のリアリスト

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『一押し、二金、三男』ということわざがある。
「ホレた女性を口説くには、押しの強さが第一。お金があることや男ぶりのよさは第二、第三の条件にすぎない」
 という意味だ。
「男」を「女」に置き換えても同じ意味になる。
 あるいは出世に関することわざに、
『一引き、二才、三学問』
 というのがある。
「出世の条件は、まず上の人間の引き立てを得ることが第一。世渡りの才能や能力はその次の条件に過ぎない」
 という意味になる。
 どんな美男美女も、大金持ちも、「押し(情熱)」の強さには叶わないということであり、どんなに勉強ができ、世渡りが上手であろうとも、上の者に可愛がられる人間には勝てないと、先人は教えるのだ。
 つまり「押し」も「可愛がられる」もキィーワードは《熱意》。
「熱意で夢は叶う」
 ということになる。
《熱意》の対極にあるキィーワードは「たら」。
「お金があったら」「上司に理解があったら」「もう少し若かったら」「もっと能力があったら」・・・等々。
 なるほど、お金があれば叶う夢もあるだろうし、上司にもっと理解があれば仕事冒険ができるかもしれない。もっと若ければ実現できる夢もあるだろう。
 だが、「たら」の本質は、
「努力すればできるにもかかわらず、その努力を放棄し、〝たら〟という言い訳に逃げ込んでいる」
 ということにある。
 すなわち、
「イケメンだったら彼女を口説けるのに」
「美人だったら彼氏を振り向かせることができるのに」
 という「たら」は、努力の放棄、情熱の喪失なのである。
 だから私は「たら」という言葉を意識して使わない。
「もし」
 という仮定の話もしない。
 私が「もし」という言葉を使うときは、最悪の結果を想定し、その対応策を練るときだけで、希望的観測としての「もし」という話は、まずしない。
 そういう意味で、私はリアリストだと自分で思っている。
 愚妻は私のことを、生活ということを一切考えない「極楽トンボ」だとあきれるが、そうではない。
 人生に対してリアリストであるがゆえに、「極楽トンボ」になれるのだと、自分では思っているのだ。

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