歳時記

ホタルを観る

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 今夜、愚妻を連れてホタルを観に行ってきた。
 暗闇のなかで、音もなく、澄んだ輝きが、あっちにもこっちにも飛びかうさまは何とも幻想的であった。
「どうだ、見てみろ」
 私は愚妻に言った。
「感動というものが金銭では購(あがな)えぬものであることが、よくわかるだろう」
「あら、金銭だって感動的だわよ」
 現実的な反応に、私はただ沈黙するばかりであった。
 帰宅して、親父にホタルを見てきた話をする。
 87歳は、
「フン」
 と鼻を鳴らして、
「わしが子供のころは、家の中までホタルが入ってきたもんじゃ」
 と得意になっている。
 何だかホタルを見た感動が薄らぐような気分であった。

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