歳時記

思い出にも〝利息〟がつく

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 私は、イヤなことはすぐ忘れるようにしている。
 いや、イヤなことはハナから記憶にとどまらないようになっているのだ。
 私を知る人間は、
「うらやましい性格だ」
 と揶揄(やゆ)するが、これは性格ではなく、訓練したのである。
 訓練といっても特段のことをするわけではない。
 イヤな結果になってしまったことは頭から閉め出し、いっさい考えないようにすればいいのだ。
 こう言うと、
「そう簡単にいくかよ」
 という返事がたいてい返ってくるのたが、そう簡単にいかないから「訓練」するのである。
 多くの人は気づいていないようだが、「イヤな記憶」も頭にとどめておくと〝利息〟がつくのだ。
(ああ、あのときこうすればよかった)
 と、いつまでも悔やんでいると、これに少しずつ〝利息〟がついていって、
(なんてバカなことをしたんだ)
 と自己嫌悪に陥(おちい)ってしまうのである。
 すなわち、イヤな記憶は〝ヤミ金〟と同じで、さっさと〝返済〟しなければ、利息が利息を呼んで、人生、にっちもさっちもいかなくなってしまうというわけだ。
 反対に、楽しい思い出はいつまでも記憶にとどめておけば、どんどん利息がついていって、ますます楽しくなる。
 だから老人は昔話を宝物のようにして、繰り返し話して聞かせる。
 老人にとって楽しい思い出は、長い年月のうちに利息が利息を呼んで〝元金〟の2倍にも3倍にもなっている。
 老人が、飽きずに同じ思い出を何度も話して聞かせるのは、もうろくしているからではなく、〝思い出の金持ち〟になっているからだろうと、私は考えるのである。

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