歳時記

年老いたメタボの駄犬

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 我が家の駄犬が、親父の部屋の冷蔵庫の前でワンワンと吼えている。
「ジイさん、はよう何か出さんかい」
 とでも言っているかのような、横柄な吼え方である。
 ちっちゃい身体のトイプードルのくせして、態度だけはデカイのだ。
 私なら一喝するところだが、親父はニコニコ笑顔で、
「おう、そうかそうか」
 と冷蔵庫を開けて、なにやらエサを与える。
 13歳の老犬は老獪(ろうかい)で、腹が減ると、87歳になった親父の部屋へ行って冷蔵庫の前に陣取り、ワンワンとやるのだが、親父はこれを親愛の情と勘違いしているのである。
 それはいいのだが、〝冷蔵庫ワンワン〟で駄犬が太ってきて、
「困っちゃうわねぇ」
 と、愚妻が私にこぼすのである。
 メタボで駄犬の肝臓が腫れているのだそうで、トリミングに連れて行った獣医から、食事制限を厳しく言い渡されたのだそうだ。
「病気になったらかわいそうじゃないの」
 と、しごくもっともなことを言う。
 ならばというので、私が親父に注意をすると、
「しかしのう、冷蔵庫の前に座ってワンワンやられると、かわいそうで」
 と、これもしごくもっともなことを言うのだ。
「しかるに」
 と、私は愚妻に告げた。
「おまえも、親父も、我が家の駄犬を愛しているということにおいて、甲乙つけがたいということだな」
「バカなこと言ってないで、どうするのよ」
「だから、腹いっぱい食べてコロリといくか、食事制限をして長生きをするか。どっちがいいか、これまた甲乙つけがたいことよのう」
「もう、あなたには相談しません!」
 まったく「愛情」とは、なんと難しいものであることか。

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