歳時記

ジイちゃん、バアちゃんの「ジロリ」

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 健康ランドの大広間の隅っこのテーブル席で原稿を書いていたら、舞台からドンドコドンと地響きのような音。
 顔を上げて見ると、若い娘さんたちの和太鼓ショーであった。
 短パンにナマ脚なら目の保養にもなるだろうに、無粋にもジャージのような衣裳である。
 で、見てもしょうがないので、目をパソコンにもどして原稿を打ち始めた。
 ドンドコドンドンと、演歌からポップスまで、歌謡曲に合わせて太鼓が鳴り響く。
 曲目からして、なにも和太鼓でなくてもよさそうだが、まっ、このチームはそういう流儀なのだろう。
 私と和太鼓と、集中力の勝負である。
 彼女たちが短パンにナマ足なら負けるかもしれないが、そうでなけりゃ、気も散るまい。
 で、実際、原稿も和太鼓のリズムに乗って調子が出てきたのだが、思わぬ伏兵がいた。
 ジイちゃん、バアちゃんである。
 ドンドコドンドンの音に吸い寄せられるように、大広間にぞろぞろ入ってきて座り始め、やがて満席になった。
 私は六人掛けテーブルに陣取ってパソコンを打っている。
 ジイちゃん、バアちゃんたちが、私をジロリと睨むのである。
(何もこんなところでバソコンなんかやることはないじゃないか)
 ジロリの目がそう告げている。
 これに集中力は乱れ、私はパソコンのフタを閉じると、そそくさと退席したのだった。
 ジイちゃん、バアちゃんのジロリは、和太鼓のドンドコドンより強烈なのである。

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