袴(はかま)をつける練習を始めた。
着物を着るからには、袴は必須とわかってはいるが、これまで躊躇してきた。私は紐を後ろで結ぶのが、絶望的に苦手なのである。
だが、そうも言ってはおられない。
一念発起、着付け本とDVDを参考にしながら、じわりと練習を始めたところが、すぐにつまずいた。
後ろ結びである。
懸念したとおり、不器用で、これがどうにもうまくいかないのである。
と言うのも、いまから数十年前、ウチの娘が幼稚園に通っていたときのこと。
幼稚園の運動会で、私は〝お父さん競争〟に参加した。
運動会なんか興味はなかったが、
「いっぺんくらい見に行ったらどうなの!」
愚妻に一喝され、しぶしぶ出かけたのである。
週刊誌記者だった当時、休日はいつも二日酔いで家でゴロゴロしていたのである。
で、もののはずみで〝お父さん競争〟に出た。
徒競走なのだが、途中でエプロンを拾い、これをつけて走るのである。
ヨーイドンのスタートからエプロンを拾うまで、私はトップで快走。
ところがエプロンでドジった。
後ろ結びができないのである。
あせればあせるほど結べず、結局、ドンケツになってしまったのである。
このとき私は腹立ちまぎれに思った。
(二度と後ろ結びなどするものか。後ろ結びなんかできなくても、男子の一生に何の関わりもないのだ)
以来、この歳まで後ろ結びには背を向けてきた。
実際、男子の一生に、何の影響もなかった。
ところが皮肉にも、男子にとって一大事の袴で、つまずくことになったのだ。
(人生、ワカラナイモノダナ)
と、数十年の幼稚園の運動会を、私は思い浮かべるのである。
人間同士で、ドラブルや不愉快なことがあると、
「ケンカしたってかまやしない。あんなヤツ、二度と会わなきゃいいんだから」
「あんなヤツの世話になることなんか、金輪際ありえない」
そう思ってケツをまくる。
ところが、世のなかというやつは、広いようで狭い。
いつ何時、どういう用事で再会するかわからないし、私も何度か実際に経験した。
なんともバツの悪いものである。
そんなこんなで、一時の腹立ちでケツをまくるのは考えものだと、袴の練習をしながら、つくづく思うのである。
袴の練習で、考えた
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