歳時記

私の「つもり馬券」

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 いま午前9時半。
 新幹線の中である。
 これから京都へ出かける。
 2泊3日。仏教の集中講義である。
 毎年、参加しているが、「わっかったつもり」になるだけで、ちっともわかっていないのだが、なんとなく知識が増えたようで、気分はいいのである。
「つもり」と言えば、かつて「つもり貯金」というのがはやったことがある。
 たとえば、「旅行に行ったつもり」になって、そのお金を貯めるというやつである。
 まさに「積もり積もれば何とやら」だ。
 で、唐突に競馬のことを思い出した。
 かつて私たち夫婦は、競馬にこっていた時期がある。
 といっても、馬券代は私が払い、勝ったら配当金は愚妻が手にするのだ。
 たぶん、そのころ何か事情があって、愚妻のご機嫌を取っていたのだろう。
 愚妻は負け続ける。
 お金は亭主もちだから、気楽にあれもこれもと買ってくれるのだ。
 窓口に買いに行くのは私で、愚妻はゴンドラ席で優雅ワインなど飲みながら待っている。
「冗談じゃねぇよ」
 とブツクサ言っているうちに、ふと思いついた。
(馬券を買ったつもりにすればいいではないか!)
 かくして、私は自分の馬券だけを買い、愚妻のぶんは「買ったつもり」である。
 もちろんナイショ。
 で、的中したときだけ窓口に行くふりをして、財布から配当金を払うというわけである。
 これなら、いくらハズレても構わない。
 万馬券が出れば真っ青だが、幸いにもハズレつづけ、私は財政破綻をまぬがれた。
 十余年前の、私の「つもり馬券」である。

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