歳時記

「職人気質」について考える

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 昨日、仕事部屋の引っ越しで房総半島をクルマで走っていたら、「がんこおやじ」と冠した飲食店の看板が目に入った。
 私は前々から、この手のウリが釈然としないでいる。
 偏屈な大工の棟梁とか、無愛想な板前など、いわゆる「職人気質」というやつがホメ言葉のようになっているが、私はこれが好きではないのだ。
 こう言うと、
「てやんでぇ、こっちとら、腕前を売ってるんだ。気にいらなきゃ、とっとと帰(けぇ)れ!」
 こんな啖呵(たんか)が返ってきそうだが、私に言わせれば、
「プロが腕前を自慢してどうする」
 ということなのだ。
 医者は病気を治して当たり前、作家は文章を書いて当たり前、漁師は魚を獲って当たり前、ホステスは接客して当たり前。
 そんなものを自慢したり、ウリにするのは間違いなのである。
 プロは腕前に「プラスアルファ」があってこそ、真のプロではないだろうか。
 私が通うマッサージ屋は、腕前はもちろんだが、施術の最中、気配りしつつ楽しい話題を提供してくれる。
 親父がかかりつけの病院の先生は、診察中、畑の話など、親父が喜ぶ話題を口にしてくれる。
 これがプロだと私は思うのだ。
 すなわちプロの力量とは、技術をタテ、気配りなど人間性をヨコとし、それを掛け合わせた面積のことを言うのである。
「気にいらなきゃ、とっとけぇてくれ!」
 こういう人間は「エセ職人」であって、本当の職人は、もっともっと謙虚なのである。

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