歳時記

着物っていいもんですね

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 奮発して、夏着物を一式そろえた。
 娘が孫を連れて遊びに来たので、これ幸いと自慢したら、
「どこへ着ていくのよ」
 冷ややかな視線で一瞥した。
 言われてみれば、どこへ着て行くわけでもない。
 いや、そもそもどうして着物を着始めたのかと言えば、この春先、『余白亭』という鰻屋のご主人に何枚か着物をもらったのがキッカケである。
 着物を着れば、懐中時計は当然、組紐である。
 組紐の先には当然、根付けである。
 帯も何本か欲しくなる。
 暖かくなれば単衣もいる。
 袖無し羽織だっている。
 そして夏にそなえて夏着物……。
 さらに、クルマの運転をするときはどうするか、用足しはどうするか。諸々を考えれば、水戸黄門さんが穿いている野袴がよさそうのなので、これも買わねばならない。
 弾みで、ちょっと着物を着てみただけなのに、いまやエライことになっているのである。
 それでも、今日など、さわやかな風が着物に心地よい。
「どうだ、お前もこれから着物にしろよ」
 並んで歩く女房に言うと、ジロリと私を睨んで、
「用事ばっかり押しつけておいて、着物なんか着てられますか!」
 うっかり余計なことを言って、怒らせてしまった。
 どうやら、私が着物を着てプラプラ歩いているのが、お気に召さないようである。
 これから着物を着て出かけるたびに、「ヒマ人」だの「遊び人」だのと嫌みを言うに違いない。
 新たな受難の始まりの予感がする今日この頃である。。

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