歳時記

浅草で根付けを買う

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 根付けが欲しくて、今朝、愚妻を連れて浅草へ出かけた。
 最近、懐中時計を持つことが多く、根付けは懐中時計につけるためのものだ。
 和服屋さんで用足しをして、小間物屋をのぞくと、女将が十二支の根付けなど、いろんな種類を並べてくれる。
 私は寅年なので、
「じゃ、虎を」
 と言いかけるより早く、愚妻が横合いから、
「そこの〝ひょっとこ〟がいいんじゃないの」
 すました顔でいった。
 愚妻の魂胆は、私にはわかっている。
(あんたは〝ひょっとこ〟よ)
 と、言外に悪口を言っているのだ。
 浅草に来る道中、車の中で愚妻に文句を言った、その意趣返しである。
 私はムッとしたが、女将にはそれがわからない。
「いいですねぇ。〝ひょっとこ〟って粋なんですよ。ご主人様によくお似合いだと思います」
 満面の笑顔でオススメに、私もついつい、
「じゃ、その〝ひょっとこ〟」
 と返事をした次第。
 だが、いま手元にある〝ひょっとこ〟を眺めていると、味わいのある顔をしているではないか。
 無機質なイケメンなんかより、はるかに男前だ。
 柘植(つげ)なので、そのうち〝手垢〟でいい色になるはずだ。
 大事に使おう。
(〝ひょっとこ〟を買ってよかった)
 と、負け惜しみでなく、そう思うのである。

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