歳時記

閃きと、メモと、シュレッダー

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 私の仕事術は〝瞬間芸〟である。
 テーマの〝眼目〟が閃(ひらめ)き、ピタリと照準が合った段階で、原稿は仕上がったも同然となる。
 言い換えれば、閃かなければ原稿は仕上がらないというわけで、稽古のときも、食事をしているときも、風呂に入っているときも、常に頭の片隅でテーマを遊ばせておいて、ひたすら閃きを待つのである。
 問題は、閃きというやつは、時と場所を選ばないことだ。
 風呂で閃けば、
「おーい! 紙と筆記用具!」
 女房に怒鳴る。
 運転中に閃けば、信号待ちで素早くメモする。
 先夜は、ベッドに入ってウトウトしかけたときに閃いた。
 眠い。
 葛藤の末、ようやくベッドから抜け出てメモをした。
 で、翌朝。
 道場内にある仕事部屋に出かけて、
「あッ!」
 不要の紙と一緒に、閃きを書きつけたメモをシュレッダーにかけてしまったのである。
 閃きは、閃きゆえに記憶に残らない。
 だからメモをするのだが、そのメモはシュレッダー……。
 逃がした魚は大きいと言うが、このときの落胆と後悔は、ポカをやって大魚を逸した気分なのである。
 誰が悪いのでもない。
 自分が悪いのだ。
 だから余計に腹が立つ。
 こうしてみると、他人を羨(うらや)んだり怒ったりするほうが、はるかに精神状態がいいことに気がついた。
「うまくいったら自分の手柄。失敗したら他人のせい」
 これでいいのだ。
 自責の念と自己嫌悪が精神を病むということを、シュレッダーは私に教えてくれたのである。
 

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