歳時記

蝉の鳴き声と、麻生総理

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 明日から天気がくずれるという予報なので、午前中、畑に出かけた。
 例によって、指南役の親父、収穫係の女房、そして草引き係の私の3人である。
 道中、指南役は、きょう植える苗の話を持ち出すが、女房はおざなりの返事をしながら、
「収穫するものがあるかしら」
 と、つぶやいている。
 私は、草刈りと耕すことに思いを馳せ、溜め息をつきながら運転している。
 同床異夢ならぬ、「同乗異目的」で、クルマは一路、畑を目指したのである。
 指南役はすぐさま苗植えの準備。女房は収穫用のハサミを手にし、私は鍬をかつぎ、三者三様、それぞれのポジションに散った。
 エッチラオッチラ耕していると、蝉(セミ)の鳴き声が聞こえてきた。
 切れかかった電池を連想させるような、ちょっとスローテンポの弱々しい鳴き声である。
(まだ鳴いてやがる)
 と思った。
 すでに10月なのだ。蝉の鳴き声が大好きな私だが、老いさらばえてなお、いつまでも未練がましく鳴いているこの蝉に対して、少しばかり不機嫌になった。
(退き際が大事なのは、蝉も同じだな)
 と、そんなことを考えつつ、
(いや、待てよ)
 と思った。
 蝉の命は確か2週間ではなかったか。
 となれば、この蝉は、いつまでも未練がましく鳴いているのではなく、少なくとも2週間以内に生まれているのだ。老いさらばえるどころか、きのう生まれた新人かもしれない。
 人気の夏場に生まれればいいものを、シーズン終了後にノコノコと生まれてきたため、
「いつまでも鳴いてるんじゃねぇ」
 と、私に毒づかれてしまうのだ。
 つまり、この蝉は〝遅れてきた蝉〟なのだ。
「時宜(じぎ)を外した」
 と言ってもいいだろう。
「時代に恵まれる」
 という言葉があるが、人間も蝉も評価は、時代に恵まれるかどうかで大きくわかれるということなのである。
 そんなことを思いながら鍬を振り下ろしていると、唐突に麻生総理の顔が浮かんできた。
 ミンミンミンと鳴いているが、〝麻生蝉〟にとって「時代」はどうか。
(自民党の人気が去りつつあるいま、麻生総理は〝遅れてきた総理〟になるかもしれない)
 鍬を振るいつつ、今朝は畑でそんなことを考えたのである。
 

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