「キミィ、あれ、どうなってるかね?」
上司に訊かれて、
「なんのことスか?」
こう問い直す〝正直者〟は大マヌケ。
「A社の企画書ですね」
「バカ者!」
的外れの返答は小マヌケ。
はしっこい部下なら、
「進行中ですが、何か?」
やんわりと探りを入れる。
「B社が催促してきてるんだ」
これでB社に提出する企画書だとわかり、
「それについては――」
キビキビと返答すれば、
(こいつ、デキる)
と評価される。
逆を言えば、相手を翻弄するには、固有名詞ではなく、
「あれ」
という〝あいまい語〟を用いればいい。
「あれ、まだかい?」
「エッ? あれって……」
「おいおい、なに言ってんだよ」
「い、いや、そのう……」
これで立場はグーンと有利になるのだ。
久しぶりに会った人間には、
「その後、どうなりました?」
この一語でいい。
「どうもしばらく。その後、どうなりました?」
「なんの話?」
とは相手は言わないもの。
質問に質問で返すのは、交渉のプロかノーテンキで、フツーの人間は、問われれば答えようと無意識に頭をめぐらせる。
答えさせる――ということで主導権を握ることになるが、同時に相手が何に関心を寄せているかもわかる。
なぜなら、答えの多くは「その後、どうなったか」という問いに見合うもになるため、目下、自分にとって最大の関心事になるからだ。
「それが専務派が巻き返しをはかりましてね」
「やっぱり」
「そうなんです。と言うのも……」
したり顔であおれば、貴重な情報も手に入るのだ。
以上、おわかりのように、「あれ」「その後」「例の件」という〝あいまい語〟は、会話や交渉の主導権を握り、相手のホンネを引き出す魔法の言葉なのである。
ホンネを引き出す「魔法の言葉」
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