歳時記

正論の沈黙と、人間の弱さ

投稿日:

 私は保護司をしている関係で、非行少年たちと接する機会が多いのだが、彼らに共通していることは、グループに流されるということだ。タバコ、酒、シンナー、万引き……等々、悪いと知っていながら、グループ内で話が持ち上がると、引きずられてしまう。
「意志が弱い」
 と決めつけるのはたやすい。
 実際、意志は弱いのだ。
「そんな誘い、断ればいいじゃないか」
 と言うのも正論だ。
 だが、断れない。
 なぜか。
 それが「悪いこと」であるからだ。自分だけいい子になることへの後ろめたさ──ここに誘いを断れない人間的な弱さがある。
 大人の世界も同じだ。
 みんなで仕事をサボっているときに、
「それは悪いことだ。働こう」
 とは言いにくい。
「出張費をごまかすのはやめよう」
 とは主張しにくい。
 正論は、正論であるがゆえに人は口を閉ざす。
 正しいことは、正しいがゆえに人は黙認する。
 人間の心って、弱いもんだ。
 そのことを友人に話すと、まじまじと私の顔を見て、
「五十代も半ばになって、いまごろ気づいたのか?」
 悪かったな、バカヤロー。

-歳時記

Copyright© 日日是耕日 , 2024 All Rights Reserved.