私は保護司をしている関係で、非行少年たちと接する機会が多いのだが、彼らに共通していることは、グループに流されるということだ。タバコ、酒、シンナー、万引き……等々、悪いと知っていながら、グループ内で話が持ち上がると、引きずられてしまう。
「意志が弱い」
と決めつけるのはたやすい。
実際、意志は弱いのだ。
「そんな誘い、断ればいいじゃないか」
と言うのも正論だ。
だが、断れない。
なぜか。
それが「悪いこと」であるからだ。自分だけいい子になることへの後ろめたさ──ここに誘いを断れない人間的な弱さがある。
大人の世界も同じだ。
みんなで仕事をサボっているときに、
「それは悪いことだ。働こう」
とは言いにくい。
「出張費をごまかすのはやめよう」
とは主張しにくい。
正論は、正論であるがゆえに人は口を閉ざす。
正しいことは、正しいがゆえに人は黙認する。
人間の心って、弱いもんだ。
そのことを友人に話すと、まじまじと私の顔を見て、
「五十代も半ばになって、いまごろ気づいたのか?」
悪かったな、バカヤロー。
正論の沈黙と、人間の弱さ
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