歳時記

交渉の極意は「二歩前進、一歩後退」

投稿日:

 押して押して、スーッと退(ひ)く――。
 これが交渉の極意である。
 一歩押して、一歩退けば「元の位置」。
 ならば二歩押して、一歩退けば「一歩の得」となる。
 周知のとおり、北朝鮮は、ゴネてゴネて、バンコ・デルタ銀行に預けてあった2500万ドルをせしめた。
 悲しいな、この世のなかは、ゴネたほうが得なのだ。
 私はゴネることに賛成はしないし、勧めもしないが、どうやれば得をするか、「ゴネる方法」は知っておくべきだろろう。
 たとえば、チンピラ。
 押し込む理由は、相手に非があれば最高だが、なければ何でもよい。善良なる市民に噛みつくときは、インネン、いちゃもん、何でもありだ。
「なんだ、その眼つきは! オレをバカにしてんのか!」
「バカになんかしてませんよ」
「なんだ、その言い方は! てめえ、ケンカ売るのか! よし、このケンカ、買ってやろうじゃねえか!」
 いつのまにか〝売られたケンカ〟にすり替え、ガンガン押していく。
 で、ガンガン押して、どれだけのシノギ(儲け)になるか。
「二歩前進、一歩後退」の理屈でいけば、押せば押すほどシノギは大きくなる。
「すみませんでした」
 善良なる市民が、このままではヤバイとばかり、謝る。
「よし、勘弁してやる。そのかわり腕一本、置いていけ」
「ええッ!」
「と、言いてえところだが、小指でいいぜ」
「こ、小指!」
「と、言いてえところだが、カタギが相手だ。誠意を見せてくれれば、今日のところ勘弁してやるよ」
 押して押して退くのである。
 北朝鮮を引き合いに出すまでもなく、国際政治もまたチンピラと同じ駆け引きが行われているのだ。恫喝し、イチャモンをつけ、押して押して押しまくり、タイミングを見てスッと退く。
 これを〝落としどころ〟と言うのだ。
「部長! どうしてこの領収書は落ちないんですか!」
「三万円以上の接待は、事前に稟議書が必要だ。知ってるだろ」
「緊急だったんです。稟議書を上げてたら間に合いません」
「規則は規則だ」
「じゃ、この商談、壊しますよ」
「おいおい、バカなこと言うんじゃない」
「だって、この接待が認められないというなら、商談自体がなかったことになるじゃないですか」
「そりゃ、理屈ではそうだが……」
「理屈だから、私はお願いしているんです」
 こうやってガンガン押して、
「今回だけ」
 という条件を出して一歩退き、ここを〝落としどころ〟にすれば、この領収書は特例ということで通るはずである。
 押して押して、スーッと退(ひ)く。
 二歩押して、一歩退き、「一歩」を得るのが交渉の極意である。
 交渉ベタは、一歩押して、一歩退き、得るものはゼロ。
 欲かきは、押して押して押しすぎて、相手を怒らせ、交渉決裂。得るものはゼロどころか、関係を悪化させたぶんだけマイナスになるというわけである。

-歳時記

Copyright© 日日是耕日 , 2024 All Rights Reserved.