歳時記

「爺さん、三界に家なし」

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今日の夕方である。
原稿に目処をつけ、ウォーキングの支度をして自室から居間に降りたら、埼玉にいる孫から敬老を祝すハガキが来ていた。
幼稚園で書いたのだろう。
平仮名が金釘流で書かれていた。

さて。
出かけようとしたところに、近所に住む娘と孫たちが、やはり敬老を祝ってやって来た。
こちらの孫は大学生と高校生である。

せっかく来たのでウォーキングを中止し、腰をおろそうとすると、愚妻が恐い顔で言う。
「ちょっと、歩きに行くんじゃないの?」

追い出すように言うのだ。
娘も止めない。

しょうがないから靴を履き、玄関を出たところで、パラパラと降ってきた。

「おい、雨だ」
居間に取って返すと、
「傘を差していけばいいでしょ」
愚妻はニベもない。

かくして雨の中、追い出された私は傘を差してウォーキングである。
さすがに誰もいない。
雨足が激しくなる。
一面の田圃が雨に煙っている。

雨と、湿気と、猛暑の名残りとで、全身、汗びっしょりである。

ふと、「爺さん、三界に家なし」という言葉がよぎる。
かつては「女三界」と言ったが、時代が変わり、「女」が「爺さん」になった。

三界とは、欲界(よっかい)・色界(しきかい)・無色界(むしきかい)の三つをいう。
難解なので説明は割愛するが、要するに「苦しみの世界」のことを言い、「三界に家なし」とは、「三界のどこにも安らぐことのできる場所はない」という意味になる。

このことから仏陀は、「安らぐことのできる場所は、三界を超えたところにこそ求めよ」と説くのだ。

そんなことを考えながら、ザンザン降りの中を黙々とウォーキングする。
三界だか四界だか知らないが、爺さんに安住の地がないことだけは確かだと納得したのである。

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